40日間のハトの子育て

6月初めに会社のスタッフが、鳩のヒナを事務所に連れてきました。
巣から落ちてたのを保護したけど、なかなか餌を食べないということでした。
それなら、と昔離乳食で使ってたような長い柄で細めのスプーンを捜し、小鳥の餌をレンジでちょっと茹でて食べさせると面白いように食べます。
ピィピィ鳴きながら「もっとちょうだい」とくちばしで指をつつき、催促してきます。

鳩のヒナは鶏のヒヨコと違って、とても可愛いとは言い難い風貌です。
本来誰からも守ってもらえるように動物の赤ちゃんは可愛いものですが、まるで不思議の国のアリスにも出てくる絶滅鳥ドードーのようです。

それでも、顔を見るとピィピィ鳴いて甘えてくると可愛いものです。
それからは、久しぶりに子育て時代に戻ったようでした。

深夜遅くまで仕事をしていても、朝はちゃんと起きて朝ごはんをあげて、ベランダに新聞紙を敷いて日光浴させて、お昼を食べさせて、遊んでやって、夕飯を食べさせて、寝床を整えて寝させるという、自分の子どもよりよっぽどきちんと世話してる感じです。

でも、なかなか歩くようにならなくて変だなと思ってたら、ペローシス(腱はずれ)という病気でした。もっと本当に小さなうちなら矯正もできたかもしれませんが、少し育ち過ぎてしまって治すのは無理のようでした。

それでも、ご飯をいっぱい食べて大きくなって、黄色い羽も抜けてきてだんだん鳩に近づいてきました。
羽も大きくなってきて、バタバタします。
脚は関節がはずれているので開脚状態ですが、羽と足をバタバタさせながら這って移動できるようになりました。

「ドードー、すごいね~。頑張ってるね~」と声をかけると、さらに張り切ってバタバタさせます。
自分の活かせる能力を最大限使って、いつか飛べるように、と頑張ってるようでした。
そのうち呼ぶと一生懸命近寄ってきて、手を出したところまで辿りつけるようになりました。
抱き上げて、頭をなでながら「おりこうだね~、かわいいね~」と言うと、嬉しそうに目を細めてくちばしをすりつけてきます。

音楽をかけていると、あるフレーズにくるとバタバタさせてます。
「ドードーはグレン・グールドのピアノが好きなんだよ。月光の第三楽章にくるとノリノリになるんだから」
周りは気のせいに決まってるじゃない、何親バカになってるんだ、と言いますが、本当ですって。

ほぼ一日中一緒にいて、外出してものんびり買い物なんかしないでできるだけ早く帰ってきて、まるで幼児を育ててる感覚で楽しみました。
ちょっとうんざりする制作の仕事をしてたので、10分ごとに顔を見て触ってと、半分逃避にも走ってました。
毎日「かわいいね」と言ってるので、本当にだんだんかわいくなってきました。

脚と羽を横に広げた平べったい恰好で、およそ鳩らしくない痛々しい様子ですが、本人はいつか飛べると信じて毎日バタバタ飛ぶ練習をしてるし、今の状態以外知らないのですから自分が不幸だとも思わないでしょう。
朝昼晩と場所を移動するたびに新しい水をもらい、フンがお尻につきやすいので週に何度もお風呂に入り、毎日寝床は新しいペットシートで、自宅のハムちゃんや家族よりも清潔で恵まれてます。

でも、こんな不自然な姿勢で過ごして、内臓にも負担がかかってるだろうから、長生きはできないだろうな、と思ってました。長生きな鳩は30年くらい生きるそうですが、ドードーは何年生きられるだろう、と思ってました。

教室が夏休みに入ったばかりの暑い日、声は出しませんがハフハフと苦しそうな口の開き方で息をし、あまり動かないでうつらうつらしてました。前日までは目を離すとバタバタ移動してたのに、何度見ても同じ場所にいます。
様子が変だから動物病院で見てもらおうということになり、連れて行きました。
「注射しますね」と言われて刺された途端、一瞬苦しんであっという間に死んでしまいました。
こんなことなら、家で様子を見て、ダメなら抱っこして静かに死なせてあげれば良かったと思いました。

まったく何の覚悟もなかったせいか、親を亡くしたよりショックが大きいのが不思議でした。
たった40日間生活の中心にいただけですが、一日中一緒にいて遊んで楽しんで、本当に癒されました。
毎日毎日飛ぶ練習に余念がなかった姿に、みんなドードーを見習おうよ、と自分も含めて言ってました。

ダラダラと進まない仕事をちゃんとしろということなのかと、その日は寝ないで仕事を仕上げました。
もう、ドードーがいるからと出張を代わってもらったり、旅行の時どうしようという心配も不要になりました。
まだまだ生きると思ってたので、ドードーグッズも買い置きしてたのに無駄になりました。
首のあたりに鳩らしい緑に光った羽が生えてきていて、もうすぐ大人の鳩らしくなるんだろうな、と楽しみでした。最近はジャンプのような動きもしてたので、大人になったらどんなことができるようになるかと期待してました。

子育て中は毎日毎日が忙しくて大変で、いつまでこんな生活が続くんだって気にもなりますが、毎日子どもは何かしらやらかしてくれたり、しゃべったり笑ったり、楽しもうと思えばいくらでも楽しめるもんだな、と今さらながら思いました。
こんなこともまだできないの、とマイナスの面を見ると腹立たしくなりますが、面白いことを探せばいくらでも笑って過ごせます。
本当に小さいうちは、毎日何度でも、「かわいいね」「おりこうだね」「こんなことができてすごいね」と褒めてあげると、喜んで張り切ってくれます。

まだまだ子育て中の方は、せっかく楽しい時期の真っ最中なんだから、もっともっと楽しんで幸せをかみしめてほしいな、と思います。