脳を活かす勉強法

元々勉強好きで、家庭環境にも恵まれ、勉強を無理強いしない両親に育てられ、東大、ケンブリッジ大とエリートコースを歩んできた脳科学者の学習方法なんて、凡人にマネできる点があるだろうか、と先入観を持ってしまいそうですが、そろばん教室でも実践しているような基本的なことを、科学的に説明してくれていて、とても参考になりました。

脳は、何かを達成したという「喜び」から、学習の回路を生み出すそうです。
その「喜び」のためには、簡単なことばかりやっても、難しいことをやってもダメで、自分の能力より少し難しいことにチャレンジし、それを達成できた時に脳は一番喜ぶそうです。

そろばんでは、最初は簡単でも、そのうちどんなに優秀な人でも行き詰まる時がきます。
加減乗除だけの単純な計算なのですが、時間内に決まった題数をこなそうとすると、集中力をどんどん高めていかなければ壁を乗り越えることができません。
常に、自分の能力より少し上のレベルにチャレンジしています。
それも、少しずつ段階を経て上のレベルに上がるから上達するのであって、優秀な人でもいきなり一級の問題をこなそうとしても無理があります。

時には、なかなか進めなくなって、優秀な生徒ほど今まで体験したことのない挫折感を味わい、スランプに陥ったりします。
小さな子だと泣き出したり、中には「できない」「もう無理」とヒステリーを起こすこともあります。
冷たいようですが、泣いたから終わりには絶対しません。
多少教えて援助はしても、決めたところまでは終わらせないと帰れません。
できないところで終わると挫折感しか残りませんが、どんなに小さな目標でも達成したところで終わることが大切だと思っています。
それも、脳科学的に学習効果が証明されているようです。

そろばんの学習で誰もが必ず味わう挫折感は、とても良い体験だと思います。
(それには自分の限界まで続けることが必要ですが)
人生の早いうちに挫折感を何度も体験しておけるのですから、将来的に一番役に立つ学習ではないでしょうか。

「タイムプレッシャー」が脳の持続力を鍛える、というのも常にそろばんでやっていることです。
制限時間内でどこまで集中力を発揮できるか、というのが一番の課題ですから、時間に関係なく同じ問題をこなすのとは違う刺激が脳を活性化します。
ただし、他人から強制されるのではなく、自分で制限時間を設定し、自らチャレンジすることで大きな効果が得られるそうです。
そろばんでのやり方を、自分の学習に活かせるようになったとき、本当に学習能力が上がるのでしょう。

日本の学習環境で難しいのが、変人と言われようと、構わずに好きなことをとことん突き詰めていく姿勢でしょうか。
ケンブリッジなどでは、身なりには構わず自分の好きな研究に打ち込む人ほど優秀で、そんな優秀な人達が、専門分野に関係なく交流し、知の交換をして刺激しあってるから、さらに知的レベルが上がっているそうです。
「勉強」と言うと拒絶反応が出てしまいがちですが、好きなことをもっとよく知りたいと思い、オタクと言われようが変人と言われようが構わず突き詰めていく姿勢が大切なのです。
日本では蔑視されがちな我が家のようなオタク族も、全国のオタク達も、偏見に負けず自分の好奇心を徹底的に満足させていけば、そのうち何らかの成果をあげるかもしれません。

そのような留学体験や学習のきっかけなど著者自身の体験や、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の司会で出会った、スポーツ選手、棋士、競馬の調教師など様々なプロの体験談も交えて、能力を伸ばす秘訣をわかりやすく教えてくれています。
精神論だけでなく、記憶術や読書法など、実践的な勉強法も参考になります。

子どもの能力を伸ばしたい親の心構えとしては、過保護や過干渉にならず、子どもが失敗を恐れずにいろんなことにチャレンジできる「安全基地」であること、だそうです。
TBSドラマの「エジソンの母」がまさにそうですね。
成績やよその子との比較で判断せず、子どもの興味や好奇心を大切に見守り、子どもが何かをしたいと思い立ったチャンスを逃さないようにしたいものです。

勉強法に悩む受験生や子ども達の参考になるだけでなく、子どもにだけ期待をかけて自分の人生をあきらめている親たちも参考にしたい本です。
「勉強とは、自分という存在を輝かせるものであり、人生における次のステージに登るためのものなのです」