生きてくれさえすれば、いいんだよ

先週土曜の深夜、NHKで夜回り先生の特集番組の再放送を見ました。
以前にも別の局の番組で見たことがありましたが、壮絶な活動をしてらっしゃる方です。
長男のクリスマスプレゼントにあげた本(「夜回り先生」)も読んでみました。
ところどころに先生の生い立ちも書かれていて、一人で危険を冒してまで、病身に鞭打ってまで、他人の子どもたちのために尽くせる理由が、少しはわかりました。

夜回り先生(水谷修先生)は、大人たちのせいで夜の裏の世界に落とされ、暴走族、暴力団、薬物中毒、自傷行為、援助交際、売春などから抜け出せない子どもたちを、なんとか昼の明るい世界に引き戻そうとしています。
「イジメやってた」
「シンナーやってた」
「リストカットやってた」
「援助交際やってた」
「暴走族やってた」
「家に引きこもってた」
と告白し、本当は抜け出したいのにどうにもできない子ども達に、
「いいんだよ」
と一言、過去も現在も否定せず、ありのままの姿を受け入れます。
もがいても自分ではどうしようもなくて、苦しいから死にたいという子ども達に、
「それだけはダメだよ」
「今は、生きててくれるだけでいい。これからどうしたらいいか、一緒に考えよう。」
と説得し、話を聞きます。
児童相談所や薬物依存、性感染症のための病院の世話、安全に住む場所の確保など、様々な協力を要請しながら、危険な現状から、明るい世界での生活を目指させようします。

どんなに水谷先生や本人が頑張ろうとしても、裏の世界から抜け出すことは簡単ではなく、ほとんどが何度でも元に戻ってしまい、悲惨な結末を迎えることも多いそうです。
水谷先生自身、暴力団から指を詰めさせられています。組を抜けるために組長と交渉し、せっかく抜けられたのに、約束をやぶってつかまった少年の身代わりになったのです。
他人がこれだけ身体を張って子ども達を救おうとしているのに、身体を張って子どもを育てられない親が多いため、次々と苦しむ子どもが増えています。
身体的虐待や性的虐待をする、抹殺したいような親のせいばかりではありません。
一見何の問題もなさそうな、中流家庭以上の恵まれた環境でも、兄弟を激しく差別したり、子どもの悩みを無視したり体面を気にして隠したり、大人から見ればそのくらいのこと、と片付けてしまうことで、死ぬほど苦しんでいる子ども達もたくさんいます。
救いを求めた大人たちが、気付かなかったり、無視したり、逃げたりすることによって、さらに傷ついていきます。

二回見た夜回り先生の番組で、二回とも話された少女の話が壮絶でした。
少女は、ちょっとした興味本位から夜の集まりに参加した時に、集団暴行にあいました。
それで自分は汚れたと思い、将来が絶望的になり、それ以降もその犯人達とさらにその仲間から「雑巾」と呼ばれながら暴行され続け、ドラッグ購入のために売春もさせられ、ボロボロの状態で水谷先生に出会います。
薬物中毒と性感染症のために入院治療をさせようと思いましたが、エイズだとわかると、少女は男達への復讐のため、放浪の旅に出ます。
最初に見つかったエイズは、薬で抑えておける種類のもので、絶望することはないと説得したにもかかわらず、少女は行方不明になってしまいます。
しばらくして、何十人もの男性に(相手は気付いてないでしょうが)復讐して戻ってきた少女は、さらに深刻な別の種類のエイズを移されていて、治療は困難になっていました。
どんどん衰弱していくだけで、回復の見込みもなく、痛く苦しい毎日から救うには、一定量のモルヒネを打って、痛みをなくしつつ死を迎えさせるしかありませんでした。
モルヒネを打ち始めると、脳神経が麻痺するため意識がなくなります。
そのため、開始の前日に、やせ衰えて変色した顔に、精一杯のお化粧をしてもらい、お気に入りの服を着て、家族と水谷先生にお別れをしました。
両親も揃っていて兄弟もいる、普通の家庭の少女だったのです。
娘に、死に向かわせるための最後の別れをしなければならなかった両親の思いは、どんなだったでしょう。もっと早く気付いて、みんなで身体を張って救い出していれば、といくら後悔してもしきれないでしょう。
でも、それだけではありませんでした。
通常なら、何日かたつと自然に死を迎えられるはずが、いつまでたっても死ねません。
さらに、薬が切れると、意識がなくても激しい痛みにもだえ苦しみ、叫び続けます。
そんな拷問のような日々が何日も続いた後、ようやく息を引き取った少女に、
「死ねて良かったな」
とお父さんは声をかけたそうです。

水谷先生は、少女と約束をしていました。
「先生は、これからもいろんな所で講演するでしょう。そのとき、必ず私のことを話してほしい。こんな馬鹿な子がいたって。そしたら、同じ馬鹿なことをやってても、やめる子がいるかもしれないでしょ。」

夜の裏の世界は、はるか遠い世界ではありません。
ちょっとした興味本位、怖いもの見たさから、あっという間にはまっている子ども達が身の回りにたくさんいて、気付かないだけかもしれません。
罪悪感もなく、弱い子ども達を利用している大人たちも、たくさんいます。
社会が悪い、と他人のせいにして、子どもをストレス発散に利用する大人も、いくらでもいます。
そんな大人をなくすことは不可能でしょう。
でも、そんな大人にならないように気をつけることはできます。
夜回り先生のように、身体を張って夜の世界を見回り、知らない子ども達に声をかけて回る勇気はなくても、周囲の身近な子ども達の話を聞いてあげることなら誰にもできます。
最低限、自分の子どもの現状をまず受け入れ、これからの人生をどうしていくか、一緒に考えてあげることくらいはしなくてはなりませんね。
最低の成績をとってきては、これから真面目にやります、と言いながら何度でも裏切り、平気で大人をだまし、おちょくっているとしか思えないお調子者の娘でも、ゲンコで連打なんかしちゃダメで、あるがままの現状を受け入れ、見守るべきなんでしょうが・・・